週刊現世6号 ■「外市」大特集号■

外市」宣言


いよいよ今週末、第一回の古書往来座外市が開催される。つい数ヶ月前まで、このような展開になるとは思いもしなかった。


思えば会場である古書往来座店主の瀬戸さんと初めて会ったのは、ちょうど一年前だった。確か2月の終わりに池袋のジュンク堂で岡崎さんと坪内さんのトークショーがあり、その後にブログをやっている人みんなで飲みましょうということになった。その時、少し前に知り合いになった、「編集会議」の古本屋紹介連載の筆者で、フリペ「buku」編集長でもあるライターの北條さんが「誘いたい人がいるんですけど」という話になった。それが瀬戸さんだった。その後、北條さんから瀬戸さんが飲み会参加に緊張していると聞いた。そこで、2月中旬に開催されたサンシャインの古本市に行った帰り、往来座に挨拶をしに行こうと、こちらも少し緊張して店に向かった。そして初めて会った。その後の飲み会でも、なんとも言えない味のある瀬戸さんの風情に一発でファンになってしまった。どちらかといえば「新宿」に行くことが多かった自分が、用事を「池袋」で済ますようになったのはこの頃である。


昨年10月の早稲田青空古本祭が終わった頃、ちょっとした用事で往来座へ行くと、急遽自分の誕生日を祝う会を今日開催してくれるという。往来座のみんなと鬼子母神横の「魚河岸亭」へ行った。その席で、往来座外の均一があまり売れない、という話になった。あれだけのスペースを使ってるのに、もったいないのではないかと瀬戸さんは話した。そこで、以前からやりたいと思っていた案を話した。古本屋の店頭、もしくは中で小さな古本市を開催するというものである。それを、その均一スペースでできないだろうか。気軽な古本市が、欲しかった。そして、やるならこの方法しかないような気がしていたのだ。


現在、古書会館などをのぞいて、古本市は受難の時代ではないだろうか。新宿伊勢丹の古本市打ち切りは衝撃的だった。あれだけの売り上げを出し続け、三十年ほど続いてきた古本市も、ブランド戦略の前にあっけなく切られた。他にも他催事との天秤にかけられてできなくなったりもあるのだという。そうじゃなくても、場所を借りるというのは大変なことで、制約は多いし、経費だって売り上げの2割3割は当たり前だ。品物集めも大変だ。以前ほど簡単に本を集められなくなった。市場に出品される本も少ないし、一般の古本市で売るような本を1000冊近く集めるのは本当に大変だ。古本市にあわせて発行される目録なんかで数百万円売るような古書店と違って、小さな古本屋は現場で売れてなんぼだ。でも本が無いから店から抜いたりして、それで店が開店休業状態になったりする。そういう本末転倒状態におちいったりもする。妥協して同じ本を使いまわして、売っていても面白くなかったりもする。


実は、そんなことから瀬戸さんは古本市というものが嫌いなのだと後で知った。話は彼の独立前、修業時代に遡る。店長があまりいなくて、店内をまかされていた彼は真面目に店の棚を作った。いろいろと考えて棚を作った。そんな棚を、一瞬で壊してしまうのはいつも古本市という存在だった。前述のように、店主に棚からごっそり本を抜かれて棚は壊れる。きっと、真面目な瀬戸さんにとって、自分の心そのものが抜かれるようにつらかったに違いない。そんな瀬戸さんに、彼の店で古本市をやろうなんて言ってるのだから、自分はなんと非常識なのか、と思う。でも、自分だって思いは同じなのだ。自分は「店」のために「古本市」をやりたいと思ったのだから。別に「古本市」というのはどこかへ行ってやる必要がないと思うのだ。実際店舗が売れている店というのは、店の中に「古本市」的な要素があるのである。「いい本」というよりは「買いやすい本」がたくさんあるという状況である。とは言っても口で言うのは簡単だが、それはそれで量もいるし、手間だって大変である。だから気軽にそのような状況を作るために、その部分は他の店に頼む。当たり前なのだが、人が来れば店も売れる。自分の店だから、制約はほとんどない。結局は、店にくる「きっかけ」作り。それが店舗内古本市なのである。


退屈男君のブログ「退屈男と本と街」というのは本当にいい名前だと思う。彼は街を歩く。本だけではなくて、街のあれこれを刻みながら歩く。「本」とは関係ない景色を歩き、「本」に関係なさそうな人たちとすれちがう。その先に本屋がある。「街」はやっぱり「雑」がいい。だから自分は「ヘイ・オン・ワイ」のような本屋だらけの街には興味がない。何かこう、「ざらつき」が無い。イメージとして、心地よすぎるのだ。路上とつながった、普通の街角に古本を集めたい。もしかしたらそれが「古本市」だと気づかない通行人がいるような、そんな古本市がやりたい。実は往来座の「往来」にはそんなイメージがあることを瀬戸さんに聞いた。彼には大事にしている言葉がある。HPのトップにある言葉だ。「本は本棚のつづき、本棚は本屋のつづき、本屋は往来のつづき」。本の中に街はあり、街の中に本はある。「本」にも「街」にも無限の可能性があるような気がしてくる。これは大学時代の恩師の言葉だそうだ。つながっているそのつなぎめで、外市をやりたい。


外市のキャッチフレーズは「外、行く?」である。お客さんが気軽に人を誘って来られるような、そんなイメージで作った言葉だ。でも、実はそれだけではない。売る側、つまり自分や参加者に向けての言葉でもあるのだ。たとえば。自分も、思うように店を運営できない。いまだ親父が社長であり、自分は雇われ店主みたいなものなのだ。だから、流されたまま毎日を送ってしまう時もある。妥協になにも感じなくなってしまう時もある。でも、言い訳ばっかりしてふてくされていても、何も変わらない。そんな時、外市が具体的に目の前に現れた。「業界」とか「早稲田」とかのしがらみがない古本市に参加できることになった。もう15年以上古本屋をやっているが、もう一度、ゼロから積み上げていける機会をもらったような気がする。自分が立っている狭い枠の外へ行けるような気がする。古本市が嫌いだった瀬戸さんは、自分の店でその古本市をやることを決めた。新しいお客さんや同業者とのつながりに賭けて、彼は一番最初に「外」へ出た。


この外市、今回の参加者の経費はゼロである。集客をもって参加費とした(次回からはわずかではあるがもらおうと思っている。備品代の蓄えとして)。出品量も自由だ。棚にあわせて量を決めるのではなく、出したい量にあわせて、棚を決める。次回の開催に参加する、しないも自由だ。やりたい時だけやればいい。店番に来られなくても参加できるようにしよう。とにかく無理なく参加できる場を作りたかった。不安なく参加できる場を作りたかった。実際、プロの古本屋でも古本市をやりたいけど量がとか、人手がとか、いろんな理由で参加できず「外」へ行けない人も多いと思う。ネットだけでやっている人、副業でやっている人、古本屋になろうか迷ってる人の中にも、気楽に参加できそうな、リアルに本を売る場があればと思っている人は多いのではないだろうか。そういう人、いまだ出会っていないけど同じようなことを思っている人が気軽に参加できる場であってほしい。今までと違う自分を表現できる場であってほしい。不満だらけの自分の枠の「外」へ行ける場であってほしい。そしてなによりお客さんにも、「本」だけではなく「街」を通して、自分の外側にある感覚に出会って欲しい。だから「外、行く?」なのだ。


いよいよ今週末、外市がスタートする。ゴソゴソと靴をはいて、その踏み出す一歩に、今から緊張している。


わめぞblogで「外市日録」更新中
http://d.hatena.ne.jp/wamezo/


驚愕スクープ! 外市最終レポート
謎の覆面大物古書店外市へ突然の参戦表明!


2月18日の日曜日。開催まで一週間をきった「外市」に激震がはしった。外市の会場でもある古書往来座の瀬戸氏が語る。
「今日、自分がある古本屋さんへ頼みごとがあって行ったんです。そうしたら偶然にある古本屋さんがいたのです。いや、超有名店主です。面識はあるにはあるのですが緊張しました」


そこで瀬戸氏は驚く言葉を耳にした。「外市に参加させてくれませんか?」。なんと突然の参戦表明である。しかも店名を変えて、自分のもうひとつの顔として参加したいのだという。有名ブランドの新ブランド創設のようなものだ。実はこの店主は外市とニアミスしている。瀬戸氏はこう語る。
「実は外市をすることになった時、一回目だからゲストはインパクトがある人にしようと古書現世の向井さんが発案したのがこの店主さんだったのです。諸事情があり、その話は流れてしまったのです。その後、どうしようと悩んでいたところで、負けず劣らずのインパクトを持つ火星の庭さんが某イベントに参加しないことになったと聞いて、声をかけさせていただいて現在に至ります」


その後、覆面店主は、この「もうひとつの自分の顔」という案を思いついたのだが、一度断った手前、なかなか言えなかったところ、この日の瀬戸氏との遭遇になったわけである。ではその正体は。残念ながら「匿名での面白さ」を追求したいということで正体を明かすことはできないのだが、こっそり聞いたその正体を聞いて筆者は衝撃を受けた。参加店名は「ごたごた荘古本部」。あの方がこの店名で! まだ製作されていないそうだが、箱中の本の紹介を書いた「ごたごた新聞」というフリペも配られるそうだ(あくまで予定)。解説書付の一箱である。「違う顔」ということで、どのような品揃えなのかは全く不明だ。専門の本なのか、全く違うのか。とにかくセンスある店主の緊急参戦だ。「ごたごた荘古本部」に大注目である。


わめぞ地図、配布します。


旅猫雑貨店・金子佳代子さん手書きの「わめぞ地図」を会場で配布します。わめぞ地域の名所まで細かく書き込んだ衝撃の作品です。完全保存版。さらに今回、もう一種類作りました。前述の地図は相当細かく書き込んでいるので、もうちょっと見やすく、今回皆様に回っていただきたい店舗、すなわち旅猫雑貨店、ブックギャラリーポポタム、古書現世立石書店などだけの位置をわかりやすく書いた、往来座を基点とした簡易地図です。2枚とも会場でゲットしてください。場所などの不明点はお気軽に参加店員にお尋ねください。あっ、早稲田の古本屋マップも配ります。全部あわせりゃ完璧ですぜ。
地図はこういうもの http://tabineko.seesaa.net/article/34083858.html


当日、外市の周辺では


本好きの方にオススメのイベントが2つあります。


はっきりいって見ごたえありすぎ! 休憩をはさんでいつも見ます・・・。今回、南陀楼氏の「けものみち処分セール」のコーナーがあるそうです。こんなところにまで!

第16回サンシャインシティ大古本まつり

※同時開催 中古CD・レコードまつり
▼開催日時
2007年2月20日(火)〜27日(火)
10時〜20時(最終日は17時まで)
▼会場
サンシャインシティ ワールドインポートマート4F 特設会場
▼36店舗参加!!
http://www.sunshinecity.co.jp/event/116902675781175740.html


第4回「手創り市」

昨年11月から始まったイベント。毎月開催。自分の手で作った手創りの商品を販売する青空市。往来座のすぐそば、鬼子母神境内にて。今後、なるべくこの市と連動する形で外市は開催していきたいと思っています。境内には都内で一番古いといわれる駄菓子屋「上川口屋」さんがあります。一見の価値あり。

詳細はHPにて! http://www.tezukuriichi.com/

「外、行く?」
■■古書往来座 外市(そといち)〜軒下の小さな古本祭〜■■

▼日時
2007年2月24日(土) 雨天決行(やや縮小します)
11:00〜19:00(往来座は22:00まで営業)

▼会場
古書往来座 外スペース
東京都豊島区南池袋3丁目8−1 ニックハイム南池袋1階
電話番号 03ー5951−3939
http://www.kosho.ne.jp/~ouraiza/

▼参加店舗
■第一回ゲスト(大棚使用約200冊出品)
bookcafe 火星の庭(仙台) http://www.kaseinoniwa.com/
■わめぞ古本屋軍団(大棚使用約200冊出品)
古書往来座雑司が谷)/古書現世(早稲田)/立石書店(早稲田)
■謎の覆面大物古書店(一箱で参加)
ごたごた荘古本部(正体は超有名古書店主)
■わめぞオールスター(小棚 or 一箱 or 自家製棚)
武藤良子雑司が谷http://www.geocities.co.jp/Milano-Aoyama/5403/
旅猫雑貨店(雑司が谷http://www.tabineko.jp/
リコシェ雑司が谷http://www.ricochet-books.net/
ブックギャラリーポポタム(目白)http://popotame.m78.com/shop/
琉璃屋コレクション(目白) 版画製作・展覧会企画
退屈男(名誉わめぞ民)http://taikutujin.exblog.jp/
■一箱スペシャルゲスト
岡崎武志堂(岡崎武志)/古本けものみち南陀楼綾繁)/
ハルミン古書センター(浅生ハルミン)/北條一浩(「buku」編集長)
他、往来座お客様オールスターズ約5名
■刃物、現場で砥ぎます 「旅猫」の兄、「砥ぎ猫」見参!
刃砥ぎ堂(雑司が谷http://www.tcn-catv.ne.jp/~kai555/


編集後記
早いものでもう今週末ですか。今週は連載などはお休みにして特別編集となりました。24日は、サンシャインや鬼子母神の手創り市もあります。どうぞ「外市」を、「わめぞ」散策をお楽しみください。参加者一同、心よりご来店をお待ちしております。では最後に。「外、行く?」。