仙台へ行ってきます

いよいよ明日、仙台へ向かいます。本番のSendai Book Market は23日の土曜日。明日の今頃はもう近藤商店で飲んでるかな。


仙台に行くというのは自分の一年の確認という面もあって。いつもその時の思いをブログに書いているのですが、今年は「WiLL」の連載で書いてしまったのです。昨年の打ち上げで思ったこと。仙台のみんなへの思いを、純子ちゃんに託して書きました。純子ちゃんに会う機会を必要以上にたくさん作るわけ。再録します。では、仙台、行ってきます。
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君の笑顔さえあれば


 佐藤純子ちゃん。仙台駅前にあるジュンク堂書店仙台ロフト店の書店員。笑顔がステキな子です。今年の三月に、「週刊ポスト」での稲泉連さんの不定期連載「復興の書店」の特別版で、いつもの笑顔がカラー写真で大きく出ていました。


 仙台は、東京生まれの自分にとって、もうひとつの故郷のようになっている街です。それは、ある人との出会いから始まりました。ケヤキ並木美しい定禅寺通り駅前通り側には、一軒のブックカフェがあります。火星の庭という不思議な名前の、それでいて姉御肌の前野久美子さんがやっている、ステキだけど無骨な感じもあるお店です。ふとしたことで知り合った前野さんとは、その後、自分のイベントに出ていただいたり、仙台ではじまったイベントであるBook! Book! Sendai にこちらが出たりと「本」を通しての交流を続けてきました。そのグループの中にいたのが、純子ちゃんでした。人なつこく、いつも周りの人を幸せにする雰囲気をまとった本の世界のアイドル的存在で。


 あの震災がおきた日、自分の店の崩れた本を直し、次から次へと流れ始めた恐ろしい映像の数々を見てから、僕たちは何もできずツイッターで断片的に知ることができる仙台の知人たちの言葉をみつめて一日を過ごしました。電源確保ができないようで、たまにしか流れてこない情報を、ずっと待っていました。
 純子ちゃんが、三月の下旬になってポツポツとブログを再開してから、何回読み返したことでしょう。そして四月に入り、お店が再び開店して、その翌日に純子ちゃんがブログに書き、メディアにも紹介された「私たちはまた本屋になりました」は、さらに何度も読み返しました。働くということ、本を必要とする人々の気持ち、当たり前のように思っていたたくさんのことを改めて考えさせられ、心を動かされました。後から聞いて、地震の直後、棚から本が落ちて散乱し足場が無い状態においても、本を踏まないようにしている方がたくさんいたといいます。逆に僕は励まされるばかりでした。


 しかしながら、純子ちゃんには、次から次へとよくないことが襲い掛かりました。福島の故郷が、とても高い放射線量であることがわかったのです。日々のツイートで書いていたご両親とのやりとり、それからこのような当たり前の故郷の話。
「星がきれいです。昔ともだちが遊びに来て、こんなにいっぱいの星みたことない!って大喜びしてくれて、とってもうれしかった。思いっきり高く飛んだら、手が届きそうな星。ほうきで掃いたら、ぱらぱら落ちてきそうな。そういう昔話があったような気がします。夜に帰ると、まず空を見上げます。」自分の無力さが本当に嫌になりました。


 ようやく会えたのは、五月のはじめでした。あるイベントにわざわざ上京した純子ちゃんは、いつもと変わらぬ笑顔で、そこにいました。抱きついてきた純子ちゃんを、自分は思い切り抱きしめました。そして六月、予定通り行われ僕たちも参加させてもらったSendai Book Market はたくさんの人が本を求めて来場しました。打ち上げの挨拶で、笑顔のまま純子ちゃんの頬に流れた涙をきっと忘れることは無いと思います。そして、その時僕は、純子ちゃんの笑顔だけあれば、なんとかなるのではないか、と思いました。その笑顔が、自分の知らない、たくさんの本好きの人を幸せにしてくれる。純子ちゃんの悲しみを消すことのできない僕たちは、純子ちゃんが心の底から楽しんで笑えるような、そういう瞬間を一回でも多く作ることなら、自分たちでもできるかも、と。こんな時代にも、君の笑顔さえあれば、と。


 今年も、六月二十三日に、仙台・サンモール一番町にてSendai Book Marketが開催されます。一箱古本市やカフェが通りに並びます。僕たちもまた、本を売りに行きます。
 純子ちゃん、元気してますか。またたくさん酒飲んで、くだらない話して、どうなるんだかわからない未来話して。そして、あの、本を楽しみにしてくるみんなを、一緒に迎えよう。お互いがその街でずっと笑顔でいられますよう。


 では、仙台にて。