2月3日イベントについて

2月3日(日)に開催する、みちくさ市2013のプレイベント、『みんなで決めた「安心」のかたち』刊行記念トーク。その『みんなで決めた「安心」のかたち』の担当編集者である柳瀬徹君から、この本に対しての文章を「わめぞブログ」用に寄稿いただきました。こちらでも紹介させていただきます。ぜひお越しくださいー。


2月3日トーク詳細は
http://d.hatena.ne.jp/wamezo/20130203


◎1月の「わめぞ」TV
1月22日(火)20:00〜。2月3日に、みちくさ市2013のプレイベントとしてトークを開催する『みんなで決めた「安心」のかたち―ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年』(亜紀書房)の編集者、柳瀬徹さんをゲストに迎え本のなりたち、トークのみどころ、なぜこのイベントが「わめぞ」でなのか、などなど、いつもとちょっと違った(いや、違わないかも…)テイストでお送りします。もちろん「雨傘」もありますわよ。
わめぞTV>>http://www.ustream.tv/channel/wamezo

みんなで決めた「安心」のかたち――ポスト3.11の「地産地消」をさがした柏の一年

担当編集者・柳瀬徹

『みんなで決めた「安心」のかたち』(http://amzn.to/TwsqMj)と、2月3日に開催のイベント「どうすれば〈みんなで決める〉ことができるのか?(http://bit.ly/RR7zXM)」について、編集者として、また個人としての思いを、長文で恐縮ですがここに記してみます(ツイートからの転載を改変)。


 3.11の時点で都内のわが家の子どもは4歳、3歳、3ヶ月。放射線の知識などまったくない中で、誤りを重ねながら情報を集めました。
 区の健康課に550ccボトルの水(乳児1人あたり3本)をもらいに行った3月24日あたりが、不安のピークでした。スーパーからすでに水は消えていて、当然足りない。妻の祖父母が長崎県在住なので、夫婦で何度も「疎開」すべきか話し合いました。
 親戚にも「何で九州に行かないの?」と何度も言われました。子どもを連れて歩いていると「家の中にいないとダメよ」なんて言われることも。ツイッターでも「雨に濡れちゃダメ!」といった「善意」の言葉が溢れていました。


 憎悪による断絶も嫌になるほど見ましたが、それよりも善意による断絶が辛かった。自分なりの防護はおおむね納得できる線にありましたが、善意の助言に反論することはできない。このストレスに耐えるくらいなら疎開しようか、とも考えました。


 結局疎開はせず東京で暮らし続け、夏ごろにはシノドス編『もうダマされないための「科学」講義』(http://amzn.to/RQXwlz)の編集に携わりました。科学的にわかること、わからないことへの態度はいかにあるべきかを考察した本で大きな反響がありましたが、断絶を解消する力まではもちえず、逆に一部では断絶を深めてしまった面もあったかも知れません。
 本の内容には満足していますが、正しさや妥当性を言葉に編んだだけでは、両岸に届く声になりえない。ではどのような声が届くのか、と考える契機でした。


 五十嵐泰正さんの名前は2005年ごろ、イベント第2部に登場する遠藤哲夫さんのブログで知りました(http://bit.ly/RQXcU7)。それから編著などに触れつつ「どういう人なんだろう?」とずっと思っていました。
 ツイッターを通じて五十嵐さんが「安全・安心の柏産柏消」円卓会議に携わっていることを知ったのは、11年の秋ごろです。当時編集をしていた「αシノドス」で取材したいと思い、ご連絡しました。
でもお会いするまでは「社会学者がなぜ放射線対策に取り組んでいるのか?」「生産者の人たちがなぜ非専門家を信頼したのか?」などといった関心が主で、地産地消については「まあ、よくあるお題目として掲げているんだろう」くらいに考えていました。


 五十嵐さんに会い、直売所「かしわで」で染谷茂さんのお話を聞き、野菜や加工食品(旨かった!地産地消がお題目ではないことを知りました)を購入し、3時間ほど五十嵐さんのお話を伺いました。震災前から柏の街づくりに関わっていたこと、放射線対策が素人仕事のレベルでないこと、そして柏という地域の価値の再生を図る五十嵐さんの行動が、単純な“small
is beautiful” “local is
beautiful”のマインドに根ざしたものでないことを知りました。放射線対策や農業にとどまらない大きなヒントを得たような気がしました。


 それから10ヶ月ほど、会議や測定にお邪魔したり、参加者にインタビューする日々が続きます(その集積が『みんきめ』の2章です)。取材と構成を続けながら、「あの2人はどのようにこの本を読むだろう」と想像していました。
 一人は遠藤さん、もう一人はイベントを主催してくれる「わめぞ」代表の向井透史くんです。エンテツさんはつかみどころのない人ですが、「食べること」を単純な尺度で捉える風潮に、別の視点を提示しつづけてきた人です。
 たとえば「美味しんぼ」などにありがちな、どこかにある「純粋で正しいもの」から、現実にあふれる「まがいもの」を減点評価するような「食」は、エンテツさんからもっとも遠いものです。それは「安全・安心」に対する態度とも通じる価値判断のあり方ではないか。
 単一ではない多様な価値の束のなかで、私たちはおいしさや安全を求めて生きている。しかし何らかの危機が起こると、根拠を知る努力を欠いたまま受け入れていた「安全」を無限に疑い始める。
 原発事故以降に起こった疑念の責任は、消費者に帰されるべきではないでしょう。しかし、無限の疑念が視界の外で誰かを傷つけているかもしれないことに、少しずつでも思いをはせるべき時期にさしかかっているのではないでしょうか。


 向井くんは早稲田の古書店主です。彼が仲間と「わめぞ」を組織し、商店主や行政、地域外の人たちとも連携しながら早稲田-目白-雑司が谷という新しい、もともとあったわけではない「地域」を作ってきた過程を少しだけ見ていました。
 伝統にも流行にも軸足を置くことのできない地域で、それぞれの歴史を築いてきた人たちの利害を調整することは、たやすいことではないはずです。それは五十嵐さんたちが柏で重ねてきた苦労と響き合うのではないかと思っていました。
 ゲラを読んでくれた向井くんの「めちゃくちゃ面白い。テンション上がってきた」という言葉にほっとしました。


 柏とわめぞの横糸に、遠藤さんの価値観の縦糸、さらに開沼博さんと五十嵐さんの溝を超えるための対話が重なる2月3日のイベントは、現時点で考えうる最高の組み合わせです。さらにその価値観を体現する存在である、自然農園レインボーファミリーの笠原夫妻にも登場していただくことになりました。


「みんなで決める」ための小さくて大きなヒントを、雑司が谷まで探しにきてください!http://bit.ly/RR7zXM