Good Morning! Shinjuku #004

東京、新宿、日曜の朝。
広い店内、素敵な装飾の純喫茶。今日もコーヒーの香りと、タバコの紫煙ごしに、
愛すべき新宿の人びとと時間を共にすることにしよう。


隣の席に作務衣姿の50歳前後の男性が座った。中尾彬のような風貌である。「アイスコーヒーを」と注文をすると、小さな小物入れのようなものをバッグから取り出した。じっと手帖のようなものを見つめていた。しばらくして店員さんがアイスコーヒーを持ってきた。男性はグラスを鼻に近づけて香りを楽しんでいるようだった。「うむ」と納得したような声を出すと、先ほど出した小物入れのジッパーを開いた。出て来たもの、それは徳利だった。


さっきから向かいの40代男性がなにかコミックを読みながら、体を震わせるぐらいにクスクス笑っている。たまに周りが振り返るぐらいの爆笑をする。ここまでこの男性を笑わせるコミックとは気になるが、ここまでクネクネと笑われては落ち着かないのである。男性はタバコを取り出し火をつけた。くわえタバコでまたクスクス笑いだしたのだが、そのうち男性の笑い声と共に、ロケットのようにタバコが飛んで行った。


小物入れからは、徳利だけではなく、御猪口も出てきた。男はグラスをかたむけて、コーヒーを徳利に移した。そしてあらためて御猪口へ入れて。しばしジッと見つめてから、クイッと飲み干し、再びコーヒーを注ぐ。このステキな空間で一人だけ吉田類の世界観をゴリ押し。たまにキンミヤに梅シロップいれるみたいな感じでミルク入れたりしている。あっ、徳利を横倒しした。
「御冷、いかがですか」
そんな光景を前にまったく当たり前な感じで普通に水を注ぐ店員さん、まじリスペクト。


男性は笑ったまま立ち上がりタバコを拾い、そのまま読み続けた。たまにシーンと何も無くなるのだが、また突然に波はやってくる。この数分で、三回目の「シーン」が来た。今までの傾向だと、この後は間違いなく爆笑がくるのである。その瞬間がやってきた。またもや周りが一斉に振り返る、その時、口からはまたタバコが発射されたのであった。そのタバコは見事、彼の飲みかけのアイスコーヒーのグラスに入って、火を消したのであった。嘘のような、茶柱なみの朝の奇跡。


東京、新宿、日曜の朝。そろそろ、夜の残り香も去りそうな時間である。