本たちの記憶

閉店間際にお声掛けいただいて、歩いて数分のところへ買取に行ってきた。台車の上に縛るひもを乗せて、ころころと押していくのは、なんとなく好きである。少し前の本で値段は高くないが、古本屋の棚に入れておきたい本たちであった。本を乗せて重心が安定した台車を、少しだけいい気分で押して帰ってきた。


明日やればいいことだけど、なんとなくすぐに値付けしたくて、そのまま布巾でゴシゴシ拭いて、値段をつけた。まだ生々しく、ついさっきまでお客様の棚に並んでいた本が、店の棚に並ぶ。棚というものは不思議なもので、たくさん入れたつもりでも、入れ終えてみると、海に水滴をたらしたような感じでもあり、並べた本を見るとなんだかずいぶん前からいたような雰囲気をまとっていたりする。値段をつけていた時の高揚感も、棚に飲まれていく。


作業を終えて、帰る。明日また店を開けた後にはもう、本も自分も、違う人の違う屋根の下にいた前世の記憶は無くなっているんだろな。