影と陽と

朝、街は静かだった。店に行こうと歩いていると、影から動きの鈍くなったゴキブリが歩いてきた。影と陽の境に到達し、日なたに身体を投げ出すと、ピタリと止まって動かなくなった。命、尽きたか。


あまり期待はしていなかったのだが、お客様も多く、売り上げもいい時間が過ぎていく。昼食を用意していないと母がいう。近くのタイラーメン〈ティーヌン〉へ行き、グリーンカレーを食べた。店内には自分ひとりだけ。なんとなく居心地悪く、水を必要以上に飲んでしまう。気づくと、テーブルに落ちた水滴の中で、小さな蚊がもがいている。見ないふりをする。「ごちそうさま」と伝票をヒラヒラさせると、ものすごく大きな声で「ありがとうございましたー」と店員が奥から走ってきた。


閉店まで目録入力を続ける。入力というか、本を選ぶのに時間がかかる。御客さんの多い日であったが、閉店時間のころには、朝の静けさが戻ってきていた。電気を消して一日の終わりを迎え入れる。均一台を中に入れると、ノラが駆けてきて、ゴロリと寝転んだ。


未来を託して死んでいった人たちに、堂々と提示できる世の中を作っていく、そのようなただ平凡な毎日を大事にしたいですね。「賛成」とか「反対」というような「政治」じゃなくて。