Good Morning ! Shinjuku #003


東京、新宿、日曜の朝。
広い店内、素敵な装飾の純喫茶。今日もコーヒーの香りと、タバコの紫煙ごしに、愛すべき新宿の人びとと時間を共にすることにしよう。


大きなスポーツバッグを持った50代の男性が横に座った。モーニングを頼み、コーヒーがくると、男は少し大げさに体をくねらせ、なんだかただならぬ雰囲気を漂わせていた。しばらくすると、スポーツバッグのい中から小さなポーチが現れ、中から電気カミソリを出した。静かな音楽が流れる店内に、バリバリと異音が流れた。そして、見なかったことにしたかったが、男は脇の下にもあてはじめていたのであった。


かなり年配の女性が対面に座っていた。しばらくすると、テーブルの下を見たりあちこち何かを探しているようだった。いったい何を探しているのか。そして、その探し物は、横から見ている自分のほうが先に見つけたのであった、絶対これだ。間違いない。トーストとトーストの間にスマホらしきものが挟まっているのであった。


男性が、眉間の毛も剃り終って、コーヒーを飲み干すと、バッグを持って席を立った。帰るのかと思ったが、トイレのほうへ向かっていく。テーブルの上には先ほどの電気カミソリが存在感を出したままになっていた。スタンガンのようなゴツい代物だ。それを横目に見て楽しんでいたのだが、ふと正面に目をやると、私はコーヒーを吹き出しそうになった。帰ってきたおじさんは赤いワンピースに赤いハイヒールという恰好に変わっていたのである。人生、いろいろ。


向かいの女性は、まだ見つけられないようだ。「志村、後ろ!」のように心の中で「姐さん、トースト!」と叫んでいるのだが伝わらないままだ。しょうがないので、もうおなかいっぱいなのだが少し大きな声で店員さんに「トーストおかわりください」と言ってみた。すると、あっ、という感じでスマホが救出された。ホッとしてコーヒーを飲む。しかし、向かい側の女性は、まだ何かを探し続けていた。違うんかい!


東京、新宿、日曜の朝。そろそろ、夜の残り香も去りそうな時間である。