Good Morning! Shinjuku #001


東京、新宿、日曜の朝。
広い店内、素敵な装飾の純喫茶。今日もコーヒーの香りと、タバコの紫煙ごしに、愛すべき新宿の人びとと時間を共にすることにしよう。


隣の席に、白いジャージを着た怖い風貌のおじさまが着席した。その筋にも見えるし、どこぞの中小企業社長と言われればそんな気がしないでもない、どちらにしてもあきらかに関わりたくないオーラを出している人だった。男はトースト食べ放題のモーニングを頼むと、日刊スポーツを広げてもはや店員以外誰も受け付けない自分の城を構築していた。

 
 目の前の、若いカップルも気になるところだ。もう、気にしだしてから30分ほど経っているが全く会話が無い。お互いが自分の空間を作って会話が無いのなら特になんとも思わない。しかし二人はずっと見つめあっているのである。彼らを左右に見る自分はさながら行司の位置。緊張みなぎる立ち合いに、少し疲れてきている。


モーニングの品が一通り揃った白ジャージの男性が新聞を閉じる。コーヒーを一口、そのあと、自分は驚くべき光景を目にすることになった。大きなバッグの中から謎の重箱が現れた。太い輪ゴムをはずし、蓋を開けると、そこには焼かれた厚手のうまそうな肉たちがキレイに並んでいたのである。男はそれを素手でトーストにたっぷり挟み、豪快にむさぼった。一度トーストを皿に置き、とても満足そうに紫煙を上に吐いた。
 正直、うまそうだった。しかし、こんな持ち込みをする人、見たことが無い。次から次へと食べていく。店員はたまに「トーストのおかわりいかがですか?」と聞きに来るので、気づいているとは思う。しかし、あえてそのままにしているのかもしれない。つっこむには、いろんな意味であまりに恐ろしすぎるのである。ふと、もしだ、もし「お兄さんも一枚どうよ?」とか聞かれたらどうするべきなのか。そんなことも考えた。もらうべきなのか、断るべきなのか。そんな時に店員さんがやってきた。「トーストのおかわりいかがですか?」。つい、ついもらうことになったらと思い、そんなにいらないのに「4枚(半切り)」と頼んでしまった。男も「6枚」と頼む。はぁ、それだとこちらに肉は勧めてこないな、安心したところに「あの」と声をかけられた。外からはわからなかったと思うが、一瞬息の仕方を忘れ、パニックになった。
「火、貸してくんない? ライター点かなくなっちった」
かろうじて無言で手渡す。帰ってきたライターは、ほのかに焼肉のタレの匂いがした。


目の前のカップルの男性が、低いトーンで、急に声を出した。
「今日さぁー、やる?」
女の子がだるそうにうなずいた。なにかはわからないが、「やる」ことになったようだ。


東京、新宿、日曜の朝。夜の残り香も、去りゆく時間。